ボトックス、食わずぎらい?
「ボトックス」について
「ボトックス」という言葉はエイジングケア、しわとりの代名詞としてひろく知られるようになりましたが「注射によるしわとり治療」を正しく表現するのであれば、
「ボツリヌストキシン治療」といったほうがよいかもしれません。
というのも「ボトックス」とよぶことができるのは、正規品であるアメリカのアッヴィ社(アラガン・エステティックス)の「ボトックスⓇビスタ」またはイギリスのグラクソスミスクライン社が販売する「ボトックスⓇ」のみだからです。
実際には「ボトックス」とされていても上記以外のボツリヌストキシンが使われているケースが少なくありません。これは表現が不正確であるという問題だけではないと思っています。全部まとめて「ボトックス」としてしまうことが結果にも影響してしまうことがあるため正しい表現をしていくことが「ボツリヌストキシン治療」を受けるみなさん、治療をおこなう私たちどちらにも求められているのです。
ちなみに、日本国内の正規品である「ボトックスⓇビスタ」や「ボトックスⓇ」以外の「ボツリヌストキシン」製剤として有名なところでは、欧州で広く使用されているイプセン社製の「ディスポート」や韓国メディトックス社製の「ニューロノックス」などがあり、これらは日本国内でもつかわれることが多い製剤です。これ以外にも「ボツリヌストキシン」製剤はたくさんありますので「ボツリヌストキシン治療」を受けるにあたっては「どの製剤が使われたか?」についてご自身できちんと知っておくことが思わぬトラブルを避ける第一歩になります。
【参考】いろいろなボツリヌストキシン
「ボツリヌス菌」が産生する天然のタンパク質である「ボツリヌストキシン」にはA型〜G型までの7種類があります。医療で人にもちいられるボツリヌストキシンはA型とB型です。
さらにA型はオナボツリヌストキシン、アボボツリヌストキシン、インコボツリヌストキシン、ダキシボツリヌストキシンの4種類に分類されます。A型のうちダキシボツリヌストキシン以外は効果に大きな差がないため区別する必要はありません。また、B型については美容医療でもちいられることはまずありません。
では、それぞれの製剤の特徴についてみていきましょう。
◎ボトックスⓇビスタ(米)
アメリカのアッヴィ社の美容部門である「アラガン・エステティックス」が販売するオナボツリヌストキシンを主成分とする元祖ボツリヌストキシン製剤、通称「アラガンボトックス」です。眉間や目尻のしわとりに厚生労働省、米国FDAの双方から承認を得ている安全性と信頼性の高い製剤。正規品では製造から輸送まですべての過程での温度管理がトレースできる形で厳密にされていることなどから効果が安定していることが大きなメリットのひとつです。個人輸入、並行輸入品では責任や管理の所在が不明確なものが存在しています。
◎ボトックス(英)
イギリスのグラクソスミスクライン社が販売するオナボツリヌストキシン製剤。成分的はボトックスビスタと同一のもので、国内では眼瞼けいれん、顔面けいれん、重度のわき汗などに保険適用となっています。
◎コアトックス(韓)、イノトックス(韓)、ニューロノックス(韓)、ボツラックス(韓)、リジェノックス(韓)、ヒュートックス(韓)
いずれも韓国製のオナボツリヌストキシン製剤、いまのところ厚生労働省に承認された製剤はありません。
◎ディスポート(仏)
フランスのイプセン社が販売するアボボツリヌストキシン製剤。ヨーロッパではボトックスビスタとならんでよくつかわれているようです。
◎ボコーチュア(ゼオミン)(独)
ドイツのメルツ社が販売するインコボツリヌストキシン。ボツリヌス菌由来の複合蛋白を除去しているため中和抗体ができにくいとされる製剤です。
※美容目的で使用する程度の少ない量では複合蛋白の影響は無視できると考えられています。
◎ゼオマイン(日)
日本の帝人ファーマが販売するインコボツリヌストキシン製剤。成分的にはボコーチュアと同等のもの。上肢、下肢の麻痺などによる筋肉のこわばり拘縮に対しての投与が国内で保険適用となっています。
◎ダキシファイ(米)
米国レバンス社のダキシボツリヌストキシン製剤、比較的新しい製剤で2022年にFDAの承認をうけたばかりの新しい製剤です。他のA型ボツリヌストキシンとの違いは持続期間が長いことで、最大6か月の効果持続があります。これまでより通院回数が少なくなるなど大きなメリットが期待されますが、日本で取り扱っている施設はまだありません(2024年10月時点)。
◎ナーブロック(日)
日本のエーザイが販売するボツリヌストキシンB製剤です。首の筋肉の異常収縮によっておこる痙性斜頚の治療に2011年厚生労働省の承認を得ています。
※総曲輪ビューティクリニックではすべての症例で正規輸入品の「ボトックスⓇビスタ」のみを使用しています。
ボトックスの量について
ボトックスの基礎知識としてもうひとつ知っておきたいのはボトックスの量についてです。
ボツリヌストキシンの量をあらわすときは「mg」や「ml」ではなく、生物学的活性の「単位(ユニット:U)」という単位でよばれます。単位のなまえが「単位」とすこしまぎらわしいのですが、すべての「ボツリヌストキシン」製剤でつかわれる量の単位になります。
ここで注意しておきたいのはアラガンボトックス1単位=イプセン社製のディスポート1単位ではないということです。ボツリヌストキシンの製剤がかわってしまうと1単位あたりの効果も変わるため「同じ量で」打ってもらったつもりが全然ちがう結果になってしまうということもありえます。
また、ボトックスは粉末状の製剤を生理食塩水でとかして使用されることが多いのですが、おなじ「アラガンボトックス」であったとしても、濃度によって薬剤の広がりかたがかわるため同じ単位数でも効果はすこしちがってきます。メーカーから推奨される濃度には幅があるので、正規品を使用しているクリニックだとしても同じ濃度あるとはかぎりません。
さらにおなじ製剤・おなじ単位数・おなじ濃度であったとしても、それを注射した部位がすこしことなるだけでも、また何箇所に分割して注射したかによっても、しわとり効果に差がでることもあるのです。たとえば深めにしっかり注入する「ボーラス投与」と浅めに細かくちょい打ちする「マイクロボトックス」でも効果や持続がちがってきます。このように量だけで効果が決まるわけではないということも受けるまえに知っておきたいボトックスの豆知識です。
ボトックスの効果は比較できる?
ではなぜ「どの製剤がつかわれたか?」について知っておいたほうがよいのでしょうか。
それはボトックス治療の効果を最大限に引きだすためです。どの製剤だったかわからないと効果の比較ができません。効果の比較をすることでつぎの治療をより希望のイメージに近づけることができます。たとえば「前回は効果が弱かったから今回はすこしつよめにしたい」といった感じです。
より自分にあったボトックス治療にカスタマイズしていくために「前回ちょっともの足りなかった」「このあたりしわが残っていた」などの感想をお伝えいただくようお願いしています。これをくりかえすことで、施術をかさねるごとに理想のイメージに近くなり、ボトックス治療の効果を最大限に引きだすことができるようになります。ボトックスで理想の結果を手に入れるためには「毎回治療の感想をしっかり伝える」ということが大切なポイントです。
やむをえず担当医が変わる場合には製剤の種類、単位数などの情報を参考にしてプランが作成されます。このとき「前回は何ml注射しました」「前回は何単位注射しました」というお話をうかがったとしても、とくにそれが他のクリニックでの施術だった場合、その情報のみで今回のちょうどいい量をおしはかるのはとても難しいことです。そこで、そういった場合も「前回までの感想」がとても貴重な情報になります。「眉間に打ってもらったときは目が重い感じがしてつらかった」「笑っている感じがしなくて気になった」「最初からとてもいい感じだった」などちょっとしたことでもかまわないので、感想を教えていただくことで思わぬトラブルを避けることができるのです。
ボトックス治療はこわいもの?
ボツリヌストキシン注射治療がはじまった90年代とくらべて、ボツリヌストキシン治療を知る人も多くなりました。
それでもいまだに
「ボツリヌストキシン注射はこわい」
「不自然な表情になる」
「まぶたが重くなる」
「表情がなくなって能面のようになる」
「筋肉が硬くなってしまうのでは?」
といった漠然とした不安の声が多い理由の一つには、おひとりお一人にとっての最適な量や方法が千差万別で、それがひろく認知されるまでに長い時間がかかったことがあげられます。
最適なボトックスの投与量
西洋人と東洋人ではシワをつくる筋肉の大きさや強さ・配置がことなります。また、どのように・どの程度しわをなくしたいと考えるのか、民族・国によって美意識の違いもあります。
日本でもボツリヌストキシンが使われるようになった当初は、西洋人をスタンダードとするボトックスの教科書しかなかったため、日本国内でもこれらの情報をもとにボトックスの注射方法を学んでいったという歴史があります。この時代にボツリヌストキシン注射を受けた方の中には確かに「不自然な表情」になってしまった、という方もおられたのではないかと思います。また、現代であっても「西洋人の」平均的な注射方法で注射を受けたり、そのほかなんらかの理由で不適切な量、部位に注射されてしまうととすればおなじような思いをすることがあります。また、旅先などで美容医療を受ける際には言葉の壁やコミュニケーション不足などが原因で適量以上の投与がおこなわれて思わぬ結果になってしまうことも少なくありません。
ボトックス食わずぎらい?
いまでは「ボトックス」が広く普及し、個人による情報発信もさかんにおこなわれるようになりましたがどちらかというとうまくいった例よりもうまくいかなかった場合の情報が過剰に発信されているように思います。失敗の情報やニュースを見てしまうと「ボトックスってこわい!」と思ってしまうかもしれませんが、アジア人向けのボトックスの指南書も多くなり、ひとりひとりにあわせて適切な注入ができる経験豊富な医師もふえてきました。
正しい知識を身につけて担当医に希望を伝えるようにすることで、最適な投与量や投与方法を選べるようになったのです。ですから漠然とした不安や不正確な情報をもとにボツリヌストキシン治療をおそれる必要はまったくありません。むしろ表情の不自然なクセをとりのぞいたりバランスをととのえることで自然な美しい表情になって喜ばれると私たちもとてもうれしいものです。慣れてくると「よくなったけどもっとこうしたい」「今回はここを少し増やしてみたい」など積極的にプランニングに参加してより良い結果を追求される患者さんもたくさんおられます。
みなさんにおすすめしたいのは
「このようなイメージで(参考画像)」
「しっかり効かせてほしい」
「はじめてなのでひかえめに」
などご自身の希望されるイメージをしっかりと担当医に伝えていただくことです。知識・経験のある担当医と十分にコミュニケーションがおこなわれ、いまのお顔の状態に見合った治療を受けることさえできれば「ボトックス食わずぎらい」が克服できる時代がきているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
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076-471-0734(受付時間:9:00〜17:00 水・日・祝のぞく)
執筆:
総曲輪ビューティクリニック 院長
佐藤 典子
形成外科専門医